1800年、伊能忠敬は、55歳の時、蝦夷地(北海道)の東南海岸と奥州街道を実地測量し、その年の12月に実測図を完成した。
功名心をあげる為に取り組んだ。という見方もあるようだが、私は、それだけでは到底成し得ない。とつくづく思っている。
（一） 彼の生い立ちが、彼の業績に影響を与えていると思う。
伊能先生（作家井上やすしが言うように私も先生と言いたい。）は、1745年、九十九里の小関（こぜき）というところに生まれ、6歳で母を亡くし、17歳で佐原の伊能家（酒屋）に婿入りした。当時、米は仙台藩あたりから、船で房総半島を回って、江戸に運搬していたが、房総半島沖は、当時十艘に一艘は、遭難する海の難所だったという。
そこで、利根川を改修し上流の関宿(幸手市付近）から、江戸川に入り、江戸に運ぶルートを作った。江戸川はそれまで、下流の江戸で度々氾濫を起こしていた。利根川に流すという一挙両得でもあった。そのため、佐原には東北から米を
運ぶ船が入るようになり、川舟に積み替えて、江戸に運んだ。そして、酒屋もたくさんあった。灘の酒が一流品だが、 シケで酒が入って来なかった時の代用品でもあった。霞ヶ浦のあたりは湿地で、開田が盛んに行われた。○○
新田とつく地名が多いのは、そのためだ。伊能先生は、田を開くために測量と、水管理のために水田の高さを正確に測ることができた。 伊能忠敬さんが、九十九里浜で見たであろう富士山は、このようだったのだろうか？
（二） なぜ、伊能先生は、深川黒江町に居を構えたか？
50歳の時、二度目の妻に先立たれてから、酒屋を息子に任せ隠居の身として、天文（暦）の勉強のため江戸に出て高橋至時を師事と仰ぐ。 勉学の場所は浅草司天台。伊能先生は、なぜか、2.5キロも離れた深川黒江町に居を構えた。
（私の勝手な想像）
理由① 黒江町の当時の地図を見ると、《伊達＊＊守》と小さい土地に書かれている。米の仕入れ元の伊達藩の紹介かもしれない。
理由② 浅草司天台と黒江町は、ほぼ南北（東経が同じ）に位置している。
浅草司天台は、鳥越神社（東経139度47分9秒）の近く。深川黒江町は、門前仲町（東経139度47分49秒）で永代橋の近くだ。二つの場所がほぼ南北。40秒程度しか違わない。
理由③ 測量の基点を正確に知りたかったためと思う。東京湾の海抜ゼロ。ここで、毎晩、北極星や恒星を観測してデータを集めていた。
この二点の北緯の差はどれくらいだろうか？当時の記録によると、
○浅草司天台 35度41分52秒
○深川黒江町 35度40分30秒 緯度差＝82秒、距離＝22町45間（2457m=22*60+45）*1.8ｍ）
82秒が、2.457ｋｍだから、1度は、（60*60）/82*2.457km=107.870kmとなる。
一度の距離は、111.133km（地球全周は4万km、360度）だから、誤差は、107.870/111.133＝0.9706 誤差ということになる。
ところが、高橋至時先生は、「さんな、小さい角度で360度を推測するのは無茶だ。」と取りあわない。
そこで、伊能先生、大発奮！「それなら北へ行かせて下さい。一度差を測りたいのです。」と、それから日本の地図完成までになってしまうのです。
何と凄い積み重ねです。伊能先生を敬服します。
下の図と表は、忠孝が測った13箇所での2地点間の緯度差から求めた一度の距離（里）。
緯度差60分（1度）以内は誤差が大きいが、それ以上は、ほぼ、28.2里という数字を出している。
観測
地点 |
深川
黒江町 |
推定
距離里 |
緯度差
分 |
| 1 |
|
27.40 |
12.00 |
| 2 |
 |
28.34 |
24.50 |
| 3 |
|
27.07 |
25.00 |
| 4 |
|
28.05 |
29.87 |
| 5 |
|
28.03 |
31.50 |
| 6 |
|
28.42 |
32.50 |
| 7 |
|
28.76 |
33.08 |
| 8 |
|
27.83 |
33.50 |
| 9 |
|
28.97 |
42.00 |
| 10 |
|
28.16 |
71.57 |
| 11 |
|
28.18 |
74.50 |
| 12 |
|
28.25 |
161.27 |
| 13 |
|
28.20 |
312.00 |
 井上ひさし の 「四千万歩の男 忠孝の生き方」 も面白い。
講談社 2001/1/21 第二刷発行 1600円
忠孝さんと一緒に測量のお供をしているようなドキュメンタリー・タッチ。伊能先生の息遣いも聞こえてくるようだ。
その他
「四千万歩の男」 （一）～（五） 講談社文庫
各冊が厚い。（二）まで買ったが、まだ一冊目。これは、読み甲斐あり。
左の本以上に、ドキュメンタリータッチ。井上やすしさんは、忠孝が日本全国を回るのだから、ＮＨＫの大河ドラマにぴったりではないか？と密かに思っていたらしい。 |
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